世界水素技術会議とは?水素エネルギーの普及を目指す団体や様々な会議も紹介

水素は次世代のクリーンなエネルギーとして長く注目されてきました。

近年は脱化石燃料の流れが世界的に拡大。

民間への水素エネルギー普及を促進するべく、様々な機関が研究活動・シンポジウムを行っています。

中でも世界水素技術会議は、 水素エネルギー分野で権威性の高いシンポジウムの1つ。

世界水素技術会議とはなんなのか、他にもある水素会議や水素関連団体について詳しく開設します。

世界水素技術会議とは世界水素エネルギー協会主催で隔年開催されている会議

世界水素技術会議(WHTC)とは、隔年で開催地を変えながら開催されている水素エネルギーに関するイベントです。

水素エネルギー業界では、世界水素エネルギー会議(WHEC)と並んで最も権威が高い会議と位置付けられています。

水素エネルギー会議は環境問題や経済面など幅広い視点で会議を進めます。

世界水素技術会議は、水素に関するテクノロジー=技術開発や研究発表が主なテーマです。

主催はいずれも世界水素エネルギー協会。

開催される国の水素エネルギー協会と協力して、様々な議題で連日セッションやシンポジウムを開催します。

世界水素エネルギー協会とはどのような組織?

世界水素エネルギー協会(International Association for Hydrogen Energy)は、アメリカのフロリダに拠点を置く組織です。

設立は1974年と歴史があり、長く水素エネルギーの研究開発支援や普及促進、教育を行ってきました。

設立当初は、水素エネルギー研究者や技術者に加えて、環境保護論者や関連団体が一堂に会する場の提供を目標に活動。

結果、1976年には第1回世界水素エネルギー会議が協会の拠点があるフロリダで開催されました。

世界水素技術会議は約30年ほどあと、2005年にシンガポールで初めて開催されています。

日本の水素エネルギー協会(HESS)はシンポジウム開催や研究を行う非営利組織

日本の水素エネルギー協会(HESS)は、世界水素エネルギー協会よりも1年早い1973年に設立された組織です。

世界水素エネルギー協会の設立にも協力しており、現在も深いつながりがあります。

水素エネルギー協会は一般社団法人の非営利組織。

大学の教授のほか、多くの一般企業も会員として名前を連ねています。

利益を上げるのが目的ではなく、産学官連携の活動や関連団体との交流促進で、幅広く水素エネルギーの普及に取り組む組織です。

水素エネルギー協会は様々な展示会・シンポジウムに協賛している

水素エネルギー協会では、研究発表会にあたる水素エネルギー協会大会を毎年開催しています。

水素のほか、環境関連や燃料電池などクリーンエネルギーに関する展示会やシンポジウムにも協賛。

協賛イベントの例

  • 水素・燃料電池展 H2&FC EXPO
  • 海水資源・環境シンポジウム
  • 電動車両技術国際会議(EVTeC2023)
  • 燃料電池シンポジウム

水素は、次世代の自動車や発電など様々な方面に可能性があるエネルギーです。

名前に水素と入っていない会議やシンポジウムにも、幅広く協力しています。

閣僚レベルの水素会議もある!世界30か国が参加する水素閣僚会議は2018年から毎年開催

水素エネルギーの普及が現実的になってきた現在、世界各国の政府要人も参加する水素閣僚会議が毎年開催されています。

2022年9月に開催された第5回では、世界30か国の閣僚や国際機関が参加。

水素の利活用促進、供給量の拡大など様々な目標を共有しました。

具体的な水素エネルギー普及プランはどのようなもの?

2019年に開催された水素閣僚会議では、今後目標実現に向けて取り組むべき行動を提示しています。

そのうちの1つが「今後10年で燃料電池システム1000万台、水素ステーション1万か所を整備する(10・10・10)」というもの。

水素社会は決して非現実的でなく、政府レベルでも具体的な目標を持って着実に近づいています。

日本政府が目標にするGX実現ってなに?

GX(グリーン・トランスフォーメーション)は、経済産業省が掲げたクリーンエネルギーの実現に向けた活動を指します。

化石燃料に頼らず、太陽光や水素など自然環境に負荷の少ないエネルギーの活用を進めることで二酸化炭素の排出量を減らそう、また、そうした活動を経済成長の機会にするために世の中全体を変革していこうという取り組みのことを「GX」と言っています。
引用元:経済産業省 METI Journal

ガソリンや灯油など化石燃料の使用量を減らし経済成長につなげ、世の中を変えていく取り組みがGXです。

太陽光や風力など自然由来エネルギー活用に加え、水素エネルギーの普及はGXに欠かせません。

国際会議とは別に、日本政府では総理大臣も交えて「再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議」を実施。

水素エネルギーの普及がいかに重要視されているかが分かります。

業界団体・水素バリューチェーン推進協議会(JH2A)は2023年4月に初めての水素フォーラムを開催

水素バリューチェーン推進協議会(JH2A)は、水素社会の実現に向けて2020年に設立された業界団体です。

参加する会社や団体、自治体は以下の企業を含め370社以上です。

参加企業の例

  • トヨタ自動車
  • 岩谷産業
  • 三井住友フィナンシャルグループ
  • ENEOS株式会社
  • 川崎重工業株式会社

2023年3月には、JH2A水素フォーラム2023を開催。

インフラや自動車関連の事業者だけでなく、金融機関を含めた幅広い業界の知識人が集まり、ディスカッションが行われました。

ほぼ毎月、会員向けセミナーも開催しており、現場レベルで水素社会の実現に向けて取り組んでいます。

日本国際水素会議・展示会は2023年10月に東京で開催される水素市場

日本国際水素会議・展示会は、2023年10月にH2テクニカルサミットや風力発電大会と同時開催されるイベント。

Connecting Green Hydrogen Japan(CGHJ)の一環として開催されます。

世界水素技術会議と似た名前ですが、日本国際水素会議・展示会は世界でクリーンエネルギー関連イベントを企画するLeader Associates主催です。

展示会では水素産業に関連する企業が一同に出展し、ビジネスマッチングの場を提供。

水素産業や水素技術に関する会議も実施されます。

2019年の世界水素技術会議は東京開催!議論された2つのテーマの今

第8回世界水素技術会議は、2019年に東京で開催されました。

当時、水素エネルギーの普及に向けて議題となっていたのが以下の2つのテーマです。

  • 再生可能エネルギー由来水素
  • 水素蓄電

どちらも再生可能エネルギーを有効活用して水素を生産、貯蔵する技術です。

一般に普及すれば、化石燃料依存からの脱却が大きく進む可能性もあります。

再生可能エネルギー由来水素とは?二酸化炭素を排出せずに作るグリーン水素

再生可能エネルギー由来水素とは、太陽光発電や風力発電の余剰電力を利用した水素です。

発電効率にムラのある自然由来の発電方法は、どうしても電力が余るタイミングもあります。

余った電気で水を分解(電解)して作られた水素が「グリーン水素」です。

水素の製造工程で二酸化炭素を排出せず、化石燃料も使わないため環境への影響が最小限になると考えられています。

製造コストの高さを解決できれば普及の道筋が立てられる

グリーン水素の最大の課題は製造コストの高さ。

水を電解して水素を作るためには多くの電力が必要です。

効率よく電解できる装置の開発や、大規模な水素プラントの建設がコストを削減させるカギとなります。

日本では、2020年に福島県浪江町に福島水素エネルギー研究フィールドが開所。

広大な太陽光発電エリアと世界有数の水電解装置を備え、普及に向けて研究が進められています。

北海道の室蘭でも、祝津風力発電所で発電した電気から水素を作る実証事業も計画中。

各地でグリーン水素を効率よく生産するためのプロジェクトが進行中です。

水素蓄電の技術は再生可能エネルギーを効率よく貯蔵して安定供給につながる

水素蓄電は、余剰電力を水素として貯蔵するシステム。

余剰電力を使って水を分解、水素を作るまではグリーン水素と同じ流れです。

作られた水素は専用タンクで貯蔵され、電力が必要な時は水素を燃料にして燃料電池で発電します。

余剰電力を保存できれば、天気の影響が大きい自然由来発電は効率よく運用可能です。

水素の形での貯蔵は長期保存に向いているため、夏の余剰電力を発電能力が落ちる冬まで保管できます。

全国各地で水素蓄電と再生可能エネルギーの実証実験が行われている

再生可能エネルギーを水素蓄電で貯蔵するシステムが確立できれば、再生エネルギーだけで電力を賄うことも夢ではありません。

長崎県の壱岐島では、2050年までの再生エネルギー率100%を目指して水素蓄電システムを導入。

宮城県仙台市では、浄水場で電力・水素複合エネルギー貯蔵システムの実証実験を行い、72時間の電力安定供給に成功しています。

水素エネルギーの普及には、実証実験の積み重ねは必要不可欠。

企業や研究機関、自治体の連携で少しずつ水素エネルギー普及に向けて進んでいます。

参照元:NEDO ニュースリリース株式会社エノア 再エネを最大限活用する水素蓄電システムの開発

2023年の世界水素技術会議は中国・仏山市で4年ぶりの実地開催

2023年は、2019年の東京以来4年ぶりに世界水素技術会議が実地開催されます。

場所は中国の仏山(フォーシャン)市。

北京や上海とともに「燃料電池自動車モデル都市群」に選定されており、水素産業基地が建設予定の都市です。

WHTC2023のテーマは?

第10会世界水素技術会議(WHTC2023)のテーマは「Hydrogen Energy and Dual-Carbon Strategy: From Present to the Future」。

直訳すると、水素とデュアルカーボン戦略がテーマとなります。

デュアルカーボン戦略とは、中国の脱炭素政策「双炭(3060ダブルカーボン)」のこと。

双炭(3060ダブルカーボン)で設定された目標

  • 2030年までに二酸化炭素排出量を減少に転じさせる
  • 2060年までに二酸化炭素排出量を0にする(カーボンニュートラル)

中国は現在世界最大の二酸化炭素排出国で、上記2つの実現に向けて欠かせないのが水素産業です。

2060年までに二酸化炭素の排出量はゼロにできる?中国では水素自動車分野が急成長

中国では、水素エネルギーを脱炭素社会の重要な手段とし、技術の向上や供給能力アップを目指しています。

太陽光発電や風力発電を利用した水素(グリーン水素)の製造と輸送技術の向上は、中国の水素エネルギー政策の中でも特に重要。

2035年までに販売する新車から一般的なガソリン車は全廃を目指すとし、水素自動車に注目が集まっています。

中国で水素燃料電池自動車普及は普及している?

水素燃料電池自動車(FCV)の保有台数は2025年までに5万台、2030年までの水素エネルギーシステム技術確立が目標です。

北京や上海では、水素ステーションの建設が急ピッチで進行中。

2030年までにFCV100万台、水素ステーション1,000か所以上が目標です。

日本自動車販売協会連合会の自動車保有動向によると、2022年度の日本での燃料電池車(水素自動車)の保有台数は6,981台。

今後2、3年で、日本を大きく上回る計画で水素自動車を普及させる計画です。

一見不可能にも見える中国の脱炭素政策ですが、十分に実現の可能性があります。

水素自動車(FCV)と電気自動車(EV)の違いは?水素は充填3分で600km以上走る

現在の日本では、水素燃料電池自動車(FCV)よりも電気自動車(EV)の方が一般への普及しています。

どちらも走行時に二酸化炭素を排出せず、電気で動く点は共通です。

大きな違いは電力の供給源や充填・充電時間にあります。

FCV EV
電力供給源 水素を燃料にして燃料電池で発電 外部から電気を充電
1回の充填(充電)での走行距離 600km以上 200~600km(車種による)
1回の充填(フル充電)時間 3分程度(ガソリン給油と同程度) 30分~14時間(コンセントの電圧による)

FCVは外部から水素を充填して燃料電池で発電、自動車を動かします。

ガソリンを燃焼させてモーターを回していたのが、水素による発電に置き換わったものです。

EVは外部から充電した電気で自動車を動かし、車本体では発電を行いません。

将来的にはどちらも普及し、利用シーンや個人の好みによってFCVとEVを乗り分けられると考えられています。

日本では水素の低コスト化に向けてインフラ整備が進められている

水素燃料電池車の普及に欠かせないのが、水素の低コスト化と水素ステーションの充実です。

日本国内では、2018年に日本水素ステーションネットワーク合同会社(JHyM)が設立。

自動車メーカーやエネルギー会社、金融機関の協業で、水素ステーションの整備を推進しています。

水素の製造や輸送方法についても、関連企業が設備を充実させ、実証実験を重ねて日々低コスト化・普及に向けて前進中。

製造・輸送・利用する環境が整えば、より水素エネルギーのコストが下がり身近なものになります。

世界で水素ビジネスは加速中!世界各国の水素エネルギー普及状況

今後水素の需要は世界的に大きくなる見込みで、特にEUの国々では積極的に普及が促進されています。

水素による発電や水素製造に欠かせない水電解装置の開発が先行しており、水素導入目標も他の国・地域よりも高いです。

2030年までの水素導入目標

国・地域 水素導入容量目標(GW・ギガワット)
EU(EU域内全体) 40GW
イギリス 10GW
フランス 6.5GW
ドイツ 5GW
日本 5GW

EUでは特に再生エネルギー由来水素の普及促進に注力。

ドイツでは国として水素関連分野に1.1兆円の投資を行い、オランダでは100%水素を燃料とした発電所の運転計画があります。

EU以外では、オーストラリアは将来水素の一大輸出国を目指している国の1つです。

褐炭(品質の低い石炭)から水素を製造して輸出するプロジェクトには、日本企業も複数参加。

水素発電計画にはドイツ企業も参加しており、国や地域、産業分野を超えて水素ビジネスは活性化しています。

参照元:経済産業省 水素保安を巡る主要国の取組資源エネルギー庁 水素を取り巻く国内外情勢と水素政策の現状について